ポイント:まず損害を賠償することができるか、という問題があります。次に賠償額を賃金控除できるかという問題があります。
自動車事故のリスクは基本的には会社が負う
ドライバートラックを用いて起こしてしまう事故には、自車の損害だけで済む場合や第三者を巻き込み会社が損害賠償請求を受けるものがあります。また、事故の原因についても、どんなに防衛運転に徹していても防げないものや、運転中にスマートフォンでゲームをしているなど、最低限の安全義務を果たしていないものもあります。
いずれにせよ従業員の業務上のミスや過失により会社が損害を被った場合に、その損害の一部を請求することは不可能ではありませんが、それは危険責任や報償責任の原則や従業員の経済的負担により制限されるとされています。
危険責任とは、「危険物を支配・管理する者は、その危険物が有する危険性が現実化したと認められる損害については、過失の有無を問題とせず絶対的な責任を負う」という考え方です。つまり、危険物であるトラックを運行させている会社は、そのドライバーを選任し、運行させている時点で責任を持つということになります。
報償責任とは、「経済活動において利益を上げているものは、その活動が原因となって他人に損害を与えた場合には、その利益の中から当然に賠償させるのが公平に資する」という考え方です。※1
このように、自動車事故の損害賠償は基本的に会社が負うものであり、従業員にその損害の一部を負担させるとしても、相当に制限されると考えた方がいいでしょう。
一部損害賠償はどんな場合に可能か?
会社が被った損害に対し、従業員への一部損害賠償(求償権)が認められた判例があります。本件は、タンクローリーのドライバーが前方不注意により前方の車両に追突し、車両を破損させた事故で、会社は修理代の全額を請求したところ裁判所が4分の1を認めた最高裁判例です。(茨城石炭商事事件、判決理由)
この判例を鵜呑みに4分の1までは求償できると判断するのは早計ですが、考慮される要件「その事業の性格、規模、施設の状況、従業員の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散について使用者の配慮の程度、その他諸般の事情」は参考にすることができます。この判例でも約33万円の損害に対し8万円という少額の求償が認められたに過ぎません。
このように従業員個人への損害賠償は、労務問題を超えた民事上の賠償問題であるため、実務上は賠償問題の専門家である弁護士に相談するなど、慎重な判断が必要です。
損害賠償予定の禁止
こうした事故についての損害賠償の難しさや不確定さから、事故が起きた際には一定の賠償額などを定めておく規定を用意したいという、要望を事業主は持ちますが、これは労基法第16条の賠償予定の禁止により、無効です。
賠償予定額を定めることを有効にしてしまうと、支払いが完了するまでの不当な身分拘束につながることを防止するために規定されています。
ただし、労基法第16条は、実際に損害が出た際に従業員に賠償を求めることまでは禁止しておらず、前述の求償権とは矛盾しません。
賃金天引きは別問題、賃金の原則の例外
従業員への賠償が可能であるとして、その支払いは給与から天引きすることができるかは別な問題です。賃金は従業員の生活の糧であり、労基法により強く保護されています(労基法第24条第1項)。
判例では、「使用者が一方的になす相殺と異なり、使用者が労働者の同意を得て行う相殺は、当該相殺が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的理由が客観的に存在するときは、全額払いに反しない」と解されています(菅野P437)。
つまり、損害賠償責任を認める同意書などの書類があれば、賃金支払い時に一部を控除することも可能であるということになります。ただし、従業員が同意書の署名する際には、自由な意思に基づくことを否定されないため、十分に配慮する必要があります。
会社に請求が来た駐車違反の反則金を求償できるか
道路交通法違反による駐車違反が、個人の都合ではなく業務指示によるやむを得ない場合には、求償を認める合理的な理由はないといえます。
※1 河野順一著 知って得する民法P.241
東京の企業と社労士が連携して自動車事故リスクを管理する重要性
東京という大都市では、企業が直面する労務リスクは多岐にわたります。その中でも、自動車事故は重大なリスクとして挙げられます。特に、物流や運輸業界においては、車両事故による損害賠償リスクが経営に大きな影響を与える可能性があります。このような状況で、社労士との連携がリスク管理において重要な役割を果たすことは明白です。
自動車事故と企業の責任
東京のような交通量の多い地域では、車両事故のリスクが高まります。企業が業務用車両を使用する際、事故によって発生する損害賠償は基本的に会社が負うとされています。これは、危険責任や報償責任といった法的原則に基づいています。
危険責任
企業がトラックや車両を運行する以上、その管理責任を果たす必要があります。この原則により、事故が発生した場合、過失の有無にかかわらず企業が責任を負う可能性があります。報償責任
企業が経済活動を通じて利益を得ている場合、その活動が原因で他者に損害を与えた場合には、その利益の中から賠償することが求められます。
これらの原則を踏まえると、東京の企業は自動車事故のリスクを正しく認識し、損害発生時の対応を整備する必要があります。この際、労務管理の専門家である社労士がリスク軽減策の構築に貢献できます。
社労士の役割と協業のポイント
社労士は、企業の労務リスク管理を支援する専門家です。東京の企業が車両事故リスクに対処するためには、以下のような場面で社労士の助けを得ることが有効です。
就業規則の見直し
社労士は、事故時の対応や損害賠償請求に関する規定を就業規則に適切に反映することを支援します。例えば、「損害賠償請求が可能な場合の条件」や「従業員が賠償責任を負うケース」の明確化は、トラブル防止に寄与します。従業員教育の充実
東京では、交通渋滞や複雑な道路事情が事故のリスクを高める要因となっています。社労士と協力し、従業員に対する防衛運転の指導や交通安全教育を行うことで、リスクの軽減が期待できます。事故後の対応支援
事故が発生した場合、損害賠償請求の適正な判断や従業員への説明が重要です。社労士は、従業員との交渉を円滑に進めるためのアドバイスを提供し、企業が法令に基づいて適切に対応できるようサポートします。
損害賠償請求の制約と対策
自動車事故が発生した際、企業が従業員に損害賠償を請求することは可能ですが、その範囲には制約があります。例えば、判例においても求償が認められる場合は非常に限定的です。このような状況下では、以下の対策が考えられます。
同意書の取得
賠償責任を認める同意書を事前に取得することで、給与天引きによる損害賠償回収を行うことが可能です。ただし、同意書は従業員の自由な意思で署名されるものである必要があります。求償の合理性の確認
業務上の指示による行為であれば、求償を避けることが求められます。例えば、駐車違反が業務上のやむを得ない事情による場合、従業員に負担を求めることは難しいとされています。
東京特有のリスク管理の課題
東京は日本の経済の中心地であり、交通インフラが非常に発達していますが、それゆえに交通事故のリスクも高まります。さらに、多様な従業員が働く東京では、労務問題が複雑化しやすい傾向があります。
このような状況では、社労士の専門知識を活用して、企業が法令遵守を徹底しつつ、従業員とのトラブルを最小限に抑えることが重要です。特に、東京の社労士は地域特有の交通事情や労働環境を熟知しており、企業が直面する課題に対して現実的な解決策を提供することができます。
東京の企業が自動車事故リスクを管理するには、社労士との協業が欠かせません。社労士の助けを借りることで、就業規則の整備や従業員教育、事故後の対応を適切に行うことが可能です。また、損害賠償請求に関する制約を理解し、法令遵守を徹底することで、企業と従業員の信頼関係を維持することができます。
社労士は、労務管理のプロフェッショナルとして、東京特有の課題に対応する力を持っています。企業が持続可能な成長を実現するために、彼らとの連携をさらに強化していくことが求められるでしょう。
H&Y社会保険労務士法人
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