運送業での長時間労働のリスク

query_builder 2024/09/27
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ポイント:運送業での長時間労働は労使ともに甘受せざるを得ない状況ではありますが、近年、長時間労働による健康被害への関連が高いことは、社会的に広く認められるようになっています。月間80時間を超えるような長時間勤務者が、健康被害を受けるまたはそれによる事故を引き起した際の損害賠償責任を会社が負うケースが増えてきています。


長時間労働=悪ではないですが、労働時間と健康被害の関係はあります


 近年、長時間労働による健康被害などの社会問題から、長時間労働が悪いという風潮ですが、長い時間働くことは端的に悪いことではありません。より長く働くことによって社会に貢献し、より多く納税し、保険料を納めてくれます。また、個人事業主は自分の意思で何時間も働くことができます。

しかしながら、中には長時間働くことによって健康を害する人もいますし、働きたくないのに働かせられる人もいます。この問題については、労使の自由に任せるだけではなく、社会的に防がなければいけません。

 虚血性心疾患や脳疾患や精神障害などの健康被害と労働時間との関連性は医学的に認められており、これらの研究結果を勘案して労働時間には上限が定められています。従って、この上限を超えて時間外労働させると、その事自体が違反行為になります。また、健康被害が生ずればその賠償を求められることになります。これらは無視できない経営上のリスクとなっており、しかもこのリスクは法改正や基準の見直しなどにより年々増しているのです。


労災認定、安全配慮義務違反の損害賠償請求のリスク


 従業員が脳・心臓疾患を発症した場合に、業務による明らかな過重負荷がある時には労災と認定される場合があります。業務による明らかな過重負荷とは、1長時間労働、2短期間の過重業務、3異常な出来事を言います。2、3については個人差もあり、多くがケースによって認定の基準は明確にはなっていません。

 一方、1長時間労働については、具体的な基準である労働時間が明確であるため、その他の要件も総合的に見るとしていますが、概ねこの基準で判断されると考えていいでしょう。

 労災認定されるということは、発症の業務起因性が行政により認められたということになります。労災認定による会社への影響は、直接的にはメリット制が適用されている場合にその後の労働保険料が増加する他、行政による安全衛生管理上の指導を受ける事や従業員からの職場改善要求が生じることが考えられます。

次に民事上の責任については、従業員本人または死亡した場合には従業員の遺族から、安全配慮義務違反による損害賠償請求をされるリスクがあります。裁判では、労働基準監督署の認定を参考にするため、労災認定された場合には、同時に安全配慮義務違反が認められる傾向にあります。従って、月間80時間に近い時間外労働を日常的にさせている場合には、これらのリスクが伴っているという認識は少なからず必要です。

この認定基準と改正されたドライバーの労働時間の上限が月80時間であり、現在中小のトラック運送事業者の従業員の2割はこの労働時間以上で働いていると言われています。時間外労働を削減する努力は第一ですが、トラック運送業では短期的な対応が難しいことが多いため、損害賠償を前提とした民間保険会社の損害賠償保険などの導入も現実的な対応策の1つと考えられます。


賃金請求の時効が2年から3年への変更

 令和2年4月の民法改正に併せて、労基法上の賃金請求権は2年から3年に延長されています(労基法第105条、第143条)。3章、4章で説明しますが、トラック運送業においては、賃金設計が複雑になるため未払い残業が発生している割合は、他業種に比べて高い現状です。

 長時間労働の従業員に対し、仮に未払い残業が発生していた場合、賃金請求の時効が伸びることは、未払残業代が増えることを意味しています。

 数年前より未払残業訴訟が増加すると言われていますが、残業請求が増加することにより、この動きがさらに加速することも懸念されます。

 

2023年4月から、60時間超の残業が50%割増に


 中小企業の残業の割増率は25%以上ですが、2023年4月より60時間以上は50%以上で計算しなければいけません。60時間超残業である従業員が多いほどこの改正の影響を強く受けます。

 総労働時間を削減することは現実的には難しいため、現実的な対策としては、従業員間の労働時間の平滑化や運賃の値上げ交渉などが考えられます。そのための準備は、できるだけ早く取り組む必要があります。

 

労働基準監督署の取締り強化による労基法違反リスク


 働き方改革以降、労働基準行政は監督官を増員するなどして、労働時間に関するものを中心に労基法違反への取締を強化しています。

これまでドライバーの労働時間に寛大であったトラック運送会社への指導も、2019年4月から5年の猶予を経て厳しくなるものと予想されます。そのため、労基法違反への対策は十分時間を掛けて行う必要があるでしょう。

 

求人への悪影響


 一般的にトラック運送会社における求人対象エリアは会社周辺の地域が中心です。ドライバー同士は交流し、運送会社の情報交換をしているため運送会社の情報は求人活動に影響します。50代以上の求職者には長時間労働はそれほどマイナスにはならないかもしれませんが、30代以下の世代は、長時間労働の会社を避ける傾向にあります。

近年は「2ちゃんねる」などのインターネット掲示板や「転職会議」などの会社情報共有サイトやSNSなどの普及により、求職者が退職者の発する会社内部情報を入手することが容易になり、これらの影響は無視できません。


長時間労働対策


運送業における長時間労働の問題は、東京のような都市部で特に顕著です。人口密度が高く、交通量も多い東京では、配送効率が低下しやすく、運送業者は長時間労働を強いられる状況にあります。この問題に対処するためには、労働環境の改善と従業員の健康管理が重要であり、社労士(社会保険労務士)の専門的な知識を活用することで、適切な対策を講じることができます。以下に、東京における長時間労働対策と、社労士が提供できる関連情報やサポートについて述べます。



1. 労働時間管理の適正化と勤怠システムの導入

東京の運送業者は、従業員の労働時間を適正に管理するために、最新の勤怠管理システムを導入することが重要です。これにより、リアルタイムで労働時間を把握し、過重労働を防止することが可能になります。社労士は、労働基準法に基づいた労働時間管理のアドバイスを行い、企業が適切な勤怠管理体制を整備するサポートを提供できます。


2. 労働環境の改善と健康管理

東京では、渋滞や交通規制により長時間の運転が避けられないこともありますが、従業員の健康管理を徹底することで、過労による事故や健康被害を防ぐことが可能です。社労士は、労働安全衛生法に基づいた健康診断の実施や、メンタルヘルスケアの導入を支援します。特に、定期的な健康診断結果をもとに従業員の健康状態をモニタリングし、早期に異常を発見する体制を整えることが重要です。


3. 働き方改革関連助成金の活用

東京では、働き方改革に対応した助成金制度が多数存在し、これらを活用することで労働環境の改善を進めることができます。例えば、「働き方改革推進支援助成金」や「職場意識改善助成金」などは、長時間労働の是正や労働環境の向上に取り組む企業にとって有益な支援策です。社労士は、これら助成金の申請手続きに精通しているため、助成金を活用した労働環境改善策を提案し、申請をサポートします。


4. 未払い残業対策と賃金制度の見直し

東京の運送業では、複雑な賃金体系が原因で未払い残業が発生するケースが多く見られます。未払い残業が労働基準監督署に指摘された場合、企業にとって大きなリスクとなります。社労士は、労働時間の適正管理と賃金制度の見直しをサポートし、未払い残業のリスクを軽減するためのアドバイスを提供します。また、労働時間に関する就業規則の整備や、従業員への適切な給与支払いに関する指導も行います。


5. ドライバーの人材確保と育成

東京では、人手不足の影響でドライバーの確保が難しくなっています。そのため、労働時間を削減するだけでなく、効率的な人材確保と育成が必要です。社労士は、労働市場のトレンドに精通しており、採用活動や人材育成に関する助言を行います。求人票の作成や面接指導など、採用プロセス全般をサポートし、適切な人材の確保に貢献します。


6. 運賃の見直しと労働時間の平準化

東京の運送業者は、運賃の見直しを通じて、従業員の労働時間の平準化を図ることも重要です。特に、取引先との運賃交渉において、適正な運賃設定を行うことは、従業員の過重労働を防ぐための一歩となります。社労士は、労働契約の内容や賃金体系の見直しを通じて、企業と従業員の双方にとって適切な労働条件の設定をサポートします。


7. テクノロジーの活用による業務効率化

東京の運送業者は、AIやIoT技術を活用して業務効率化を図ることで、労働時間の削減を実現できます。たとえば、AIを活用したルート最適化システムや、ドライバーの健康状態をリアルタイムでモニタリングするツールは、長時間労働を減らす効果的な手段です。社労士は、こうした最新のテクノロジーを活用した労働環境改善策を提案し、導入支援を行うことができます。


8. コンプライアンスと労働基準法違反への対応

東京では、労働基準監督署による労働時間に関する取り締まりが強化されています。特に運送業は、法令違反のリスクが高いため、社労士によるコンプライアンス指導が不可欠です。社労士は、企業が労働基準法を遵守し、適切な労働時間管理を行うためのアドバイスを提供し、違反リスクを軽減します。


まとめ

東京における運送業の長時間労働問題は、従業員の健康リスクや企業の法的リスクと密接に関連しています。社労士のサポートを受けることで、労働時間管理や健康管理、助成金の活用、未払い残業対策など、多方面からの対策が可能となります。運送業界が長時間労働問題に取り組む際、社労士の専門知識と経験を活かして、働きやすい環境づくりを推進することは、企業の持続的な成長と従業員の健康維持にとって不可欠です。


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H&Y社会保険労務士法人

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