残業代を固定的に支払いたい場合は

query_builder 2024/09/21
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ポイント:固定残業制を導入する場合は、残業代を支払っていることが明確にわかるよう就業規則や雇用契約書で明確にする必要があります。また、固定残業代で相当する残業時間以上の残業が発生した場合には、不足分を別途支給しなければいけません。

固定残業制の効果

いわゆる固定残業制とは賃金の支払い方の1つで、任意に設定した一定時間の残業時間に相当する残業代を固定的に支払う制度をいいます。基本給に組み入れる組込み型と固定残業代というように別に項目を立てる手当型があります※。いずれの型にせよ、残業代を固定的に設定することにより、従業員としては実際の残業時間にかかわらず残業代が固定的に支払われるため、効率よく作業しようという意識が高まります。また、会社としては労務費についての変動が少なくなり、労務費が予測しやすくなるという効果があります。ただし、固定残業制を採用しても、一定時間を過ぎた残業については別途残業代を支払わなければいけないため、労働時間の管理及び計算を省略することはできません。




成立するための要件、明確区分性

固定残業制で最も注意しなければいけない点は、残業代の支払いが認められない、つまり不払い賃金となることです。例えば、基本給40万円に50時間の残業代を組込む場合、時給単価は1,698円で、50時間分の固定残業代はおよそ106,200円になります。この時、基本給のうち106,200円が残業代であることが認められない場合、残業代の支払いがないとする上に、40万円すべてが時給単価の基礎となり、2,312円となってしまいます。残業代として支払いが認められるための要件は、判例により明確になっています。高知県観光事件では、歩合給に残業代を組み込ませた型について争われたケースですが、定額(固定)残業代部分と通常の賃金との判別がされていることという要件を明らかにしています。すなわち、基本給40万円のうち、10万円は残業代であるというように、通常の賃金と残業代部分が明確に判別できていなければいけません。組込み型は、明確区分性を示すために就業規則や労働契約書等にその旨を記載する必要があります。



手当型では、例えば固定残業手当という名称の手当が、残業代として支払われているかが問われます。残業代として支払われているのであれば、設定時間を超えた残業があった場合に、超えた残業時間について支払いがあるはずです。そのような支払い実績があることやその取り決め就業規則等によって取り決められているかで判断されます。

 従って、就業規則には設定時間を超えた残業が発生した場合には超えた残業時間分の残業代を支払う旨を明記しておくことが必要です。図は、手当型での就業規則と労働条件通知書の記載例です。判例では、設定時間が何時間であるかを明記することまでは求められていないものの、例のように記載しておいた方が望ましいことに間違いありません。

 また、業務手当が時間外手当の基礎となると二重に計算されてしまうため、賃金計算の時間外労働手当の計算式においては、業務手当が時間外労働手当の算定基礎から除かれている旨を明記することは確認して下さい。



具体的な就業規則事例

 図は、実際のトラック運送会社の就業規則にあった事例で、手当型の記載例をもとに適法性を検討します。これまで述べたように、どうしても算定基礎単価を抑え、残業代を抑えたいというニーズからだと思われますが、役職手当やその他手当てを残業手当の一部として組み入れるように記載しています。こうして各手当が残業手当の一部であることを示せば、それは認められるのでしょうか?

 例えば役職手当ですが、その会社で役職手当を付けている対象者が一般の従業員と比べて責任者的な立場であり、その額が職責の大きさに応じているのであるならば、それは正に職責の大きさに対する賃金であり、一般的な役職手当です。

その役職手当が時間外労働手当の一部であるということは、時間外労働の長短によって役職手当が多くなったり少なくなったりするということとなり、合理的な解釈ができません。

 「○○手当を時間外手当として支給する」というように記載しておけば、算定基礎から除くことができて、しかも時間外手当とすることができるというのは、会社にとって都合のよい解釈であり、時間外手当として認められない可能性がある設定だと考えられます。

 従って、図のような規定例は、一見すると合理的な説明がなされ、適法であるかのように見えますが、名称に捕らわれず個々の手当の実質的な性質を鑑みれば、適法性は疑わしいことが分かります。

 前述した通り、各手当てが固定残業として認められるか否かは、莫大な未払い給与のリスクとなるため、固定残業制の導入・運用に際しては、綿密な設計が必要です。

 このような規定がされている場合には、未払給与のリスクについて専門家に相談した方がよいでしょう。




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